知的障害とは、知的機能の発達が平均よりも著しく遅れ、日常生活に支障をきたす状態を指します。
発達期(おおむね18歳まで)に生じ、認知力・判断力・学習能力などに困難を伴うことが特徴です。
厚生労働省による分類では、以下の3点が主な判断基準とされています。
・IQ(知能指数)が概ね70以下
・社会的適応能力の制限(コミュニケーション・生活スキル・対人スキルなど)
・発症が発達期にある
知的障害の程度は軽度から重度までさまざまで、支援の内容も個別に異なります。軽度の場合は一見して分かりにくく、誤解や偏見を受けることも少なくありません。
内閣府の「令和6年 障害者白書」によると、知的障害のある人の数は約108.5万人(令和4年)とされており、そのうち在宅で生活している人が約9割以上を占めています。
このように多くの方が地域で生活している一方で、見た目や行動からは障害が分かりにくいため、「怠けている」「空気が読めない」などと誤解を受けるケースもあります。
教育や就労、生活の場面において以下のような課題が多く報告されています:
・通常学級での受け入れ体制が不十分(特別支援学級の教員不足、支援員の配置不備)
・特別支援学校卒業後の進路が限られている(福祉施設かごく一部の就労先)
・就労継続支援B型事業所への偏りと、賃金水準の低さ(月平均15,000円未満)
知的障害のある方の多くは、軽作業や清掃、調理補助などの分野で就労しています。 しかし、以下のような現実的な課題があります。
・作業スピードや正確さを求められる職場では適応が難しい
・職場内の人間関係や指示の理解に時間がかかる
・雇用主側の理解や支援ノウハウが不足している
さらに、就労に向けた移行支援制度が「支援学校卒業後にしか利用できない」など、制度の段差も深刻な問題となっています。
実際に「本人は働く意欲があるのに、受け入れ先がなく家庭で孤立している」という声も多く聞かれます。
知的障害のある子を育てる家庭では、次のような声がよく聞かれます。
・「親亡き後の生活が心配」
・「兄弟姉妹への負担が大きくならないか不安」
・「福祉制度が複雑で何から始めればいいか分からない」
グループホームなどの居住支援も不足しており、地域差によっては数年待機という地域もあります。
また、入所施設の高齢化や慢性的な人手不足等により、希望してもすぐに利用できるわけではありません。
さらに家族の精神的・経済的な負担も大きく、親が高齢になっても支援を担っている現状があります。
令和6年障害者白書では、以下のような指摘があります。「知的障害者の社会参加においては、移動・対人コミュニケーション・自己管理等に支援が必要であり、制度の継ぎ目で生じる“谷間”の解消が求められる。」
つまり、「学齢期→成人期→老年期」のライフステージに沿った支援体制を整備することが、今後の大きな課題と言えるでしょう。
知的障害を抱える方は、日々の生活の中で「ちょっとした支援」や「理解のある関わり」によって、大きな安心感と自信を得ることができます。
・声かけをゆっくり・わかりやすく
・目を見て伝える、同じことを何度も丁寧に繰り返す
・支援を一方的にではなく、本人の意志を尊重する
・困っている様子を見かけたら、そっと声をかける勇気を
「特別視」するのではなく、「配慮」をもって自然に関わる姿勢が大切です。
知的障害のある方にとって、社会との“接点”が増えることは自立や尊厳ある暮らしに直結します。逆に、支援の“切れ目”が孤立を生みやすくします。
地域・家庭・学校・職場など、あらゆる場で「共に生きる」意識を持ち、共生社会の実現に向けて一歩ずつ進んでいけるよう、引き続き考え続けていきましょう。
精神障害とは、脳の機能や精神の状態に不調をきたし、感情や思考、行動に影響を及ぼし、日常生活や社会活動に困難を抱える状態を指します。外見からは障害がわかりにくいため、周囲の理解を得るのが難しく、「なまけている」「やる気がない」と誤解されることも少なくありません。
日本の法律や医療制度において精神障害として扱われる代表的な疾患には以下が含まれます:
・統合失調症:幻覚・妄想・思考障害などの症状があり、病識がないことも多いが、治療により寛解も可能。
・気分障害(うつ病・双極性障害):気分の極端な変動や持続する落ち込みなど。就労・通学が困難になる場合も。
・不安障害・パニック障害・強迫性障害:特定の状況や対象に対する極端な不安や行動制御の困難がみられる。
・てんかん:突発的な発作があり、精神障害に分類されるが脳神経疾患でもある。
近年、精神障害を抱える人の数は増加傾向にあり、厚労省の統計によると令和2年時点で419.3万人と報告されています(※入院・外来合わせて)。背景には以下の要因が挙げられます:
・高ストレス社会(過重労働・SNS・人間関係の複雑化)
・早期診断や通院・受診の敷居が下がったこと
・精神疾患の概念が広がり、多様な症状が対象になったこと
精神障害者の雇用率は障害者の中でも最も低いが、希望者は多い。社会的偏見や職場の理解不足が障壁となっている。
また、精神障害者保健福祉手帳の取得者のうち、
・約40%が「周囲に障害を明かしていない」
・約25%が「障害を理由に退職を経験した」と回答
という調査もあり、職場や地域における偏見の根深さが浮き彫りになっています。
出典:令和6年障害者白書
・医療と福祉の連携不足:退院後の地域移行支援が不十分なまま、孤立してしまうケースも。
・本人の自己理解と受容に時間がかかる:病識(自分が障害を抱えていることの認識)を持てない人も多く、支援のスタートラインに立つまでに時間がかかります。
・支援者・家族の燃え尽き(ケアラーズ・バーンアウト):24時間の支援が必要な場合、介護者側の限界も大きな社会課題です。
合理的配慮は、障害者差別解消法により企業や行政に対して義務付けられています。精神障害においては、以下のような配慮が求められます:
・勤務時間や出勤日の柔軟化(通院・服薬の影響を考慮)
・静かな作業スペースの確保
・ストレスの少ない業務配分
・明確な指示やマニュアルの提供
精神科に継続的に通院する人にとって負担が大きい医療費については、「自立支援医療制度(精神通院医療)」により、原則1割負担になります。
また、以下のサービスとの併用も可能:
・地域活動支援センター
・就労移行支援、就労継続支援A/B型
・グループホームや地域定着支援
精神障害は、目に見えにくく、支援の在り方も千差万別です。症状は一人ひとり異なり、「この人はこうすべき」という一括りの理解では支えきれません。
社会全体として、「見えないから配慮しない」のではなく、「見えないからこそ対話と配慮が必要」という視点の転換が必要です。
偏見や誤解を乗り越え、精神障害があっても自分らしく生きられる社会をつくるために、私たち一人ひとりが“できること”を考えていきたいと思います。
前回は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)について取り上げてきました。今回は「見えない障がい」の中でも学校生活において特に困難を感じやすい「学習障害(Learning Disabilities/LD)」について解説します。
☆学習障害(LD)とは?
LDは、知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などの特定の能力に困難を抱える状態を指します。
例として:
・文字の読み書きが極端に苦手(ディスレクシア)
・数字の理解や計算が難しい(ディスカリキュリア)
・話の順序を整理して伝えるのが困難(ディスグラフィア)
などがあります。
☆ 学校現場での困りごと
学習障害を持つ子どもたちは、以下のような困難を日々経験しています:
・黒板の字をノートに写すのに時間がかかる
・読んだ内容が頭に入らない、理解できない
・漢字が覚えられない
・授業のスピードについていけない
・教師に「努力不足」と誤解される
これにより、自己肯定感が下がり、学校に行きたくない気持ちが強まることもあります。
☆ 見えにくさの難しさ
LDは一見してわかりづらく、知的障害とも異なるため、 「なんでできないの?」「怠けてるのでは?」という誤解を受けやすいのが現状です。
また、ASDやADHDと併存していることも多く、専門的な評価・診断が必要です。
☆支援の具体例
・読み書きに困難がある子には、タブレットやPCによるICT支援
・音声教材の利用や読み上げソフト
・テストの時間延長や問題の読み上げ対応
・ノートテイク(代筆)の支援
・学校内外での学習支援やカウンセリングの併用
☆大人になってからのLD
大人になっても、LDによる困りごとは継続することがあります。
・書類の作成や読解に時間がかかる
・メールの誤字脱字が多い
・マニュアルを読むのが苦手
・数字に対する苦手意識が強い
職場では「仕事が遅い」「不注意」と誤解されがちですが、適切な配慮やツールの活用で業務は十分にこなせる場合もあります。
☆障害者白書にもみるLD支援の重要性
内閣府「令和6年版障害者白書」でも、LDを含む発達障害への理解促進と教育現場・職場における支援の充実が提言されています。 「誰ひとり取り残さない支援」の実現のためにも、早期発見と継続的なサポートが不可欠です。
出典:
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r06hakusho/zenbun/index-pdf.html
LDは本人の努力不足ではありません。 「見えない障がい」であるがゆえに、周囲の理解や支援が何よりも重要です。 一人ひとりが自分の特性を理解し、周囲と共に歩んでいける環境づくりが求められています。
次回は「精神障害(精神疾患を含む障がい)」について触れていきます。
前回は、自閉症スペクトラム障害(ASD)についてご紹介しました。今回はその続きとして、見えない障がいの中でも特に日常生活や仕事で困りごとが生じやすい「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」について掘り下げていきます。
☆注意欠陥・多動性障害(ADHD)とは?
ADHDは発達障害の一種で、以下の3つの特徴が組み合わさる場合が多いとされています:
①不注意(集中力が続かない、忘れ物が多い)
②多動性(落ち着きがない、じっとしていられない)
③衝動性(考える前に行動してしまう)
これらの症状は子どもに限らず、大人になってからも継続することがあり、仕事や人間関係に影響を与えるケースが増えています。
☆ ADHDの具体的な特徴
・会議中に落ち着きがなくなる
・話を最後まで聞けず、途中で口を挟む
・物をよくなくす、忘れ物が多い
・スケジュールやタスク管理が苦手
・衝動買いや感情の爆発が起こりやすい
これらは誰にでも一時的にあるものですが、ADHDの場合は日常生活全般にわたり強く影響します。
☆大人のADHDについて
大人のADHDは「仕事が続かない」「人間関係がうまくいかない」などの形で表れることが多いです。
特に:
・報連相(報告・連絡・相談)が苦手
・時間管理ができない
・片付けができない
といった傾向がある場合、自分でも気づかずにADHDであることもあります。
☆ADHDへの具体的な配慮例
・仕事や家庭でのToDoリストの活用
・タイマーやアラームを活用した時間管理
・口頭だけでなく、メモや掲示での指示確認
・衝動性を抑える工夫(すぐに決断しないなど)
☆支援の現場から見える課題
ASDと同様に、ADHDも「怠けているだけ」と誤解されがちな障がいです。 支援学校や福祉施設でも、大人になってから困りごとが表面化し、相談に来られる方が少なくありません。
・周囲の理解不足
・本人の自己肯定感の低下
・医療・福祉サービスの連携不足
こうした課題に対して、地域全体でのサポート体制が求められています。
ADHDもまた「見えない障がい」のひとつです。 その特性を正しく理解し、日常生活や仕事の中で無理なく支援できる環境づくりが必要だと感じています。
次回は「学習障害(LD)」について掘り下げていく予定です。
前回のブログでは「見えない障がい」の具体例と特徴についてご紹介しました。今回は、自閉症スペクトラム障害(ASD)について掘り下げていきたいと思います。
☆自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?
ASDは発達障害の一種で、以下の2つの特徴が主に見られます。
①社会的コミュニケーションや対人関係の困難
②限定された興味や行動パターン、こだわり行動
かつては「自閉症」「アスペルガー症候群」などに分類されていましたが、現在はまとめてASDという名称が使われています。
☆ ASDの具体的な特徴
・空気を読むのが苦手
・会話のキャッチボールがうまくできない
・感覚過敏(音・光・匂いなど)
・予定変更への強い抵抗感
・手順やルールへの強いこだわり
・興味が偏る(特定のことだけを極端に好む)
これらの特徴は人によって強さや現れ方が異なります。そのため「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われています。
☆大人のASDについて
ASDは子どもだけでなく、大人にも広く見られます。以下は大人のASDでよく見られる傾向です。
・職場でのコミュニケーションがうまくいかない
・マルチタスクや臨機応変な対応が苦手
・興味のないことに集中できない、逆に興味があることには極端に集中する
・繰り返しの作業やルーティンを好む
・些細な変化に強いストレスを感じる
大人の場合、自分では気づかずに生きづらさを抱えたまま生活しているケースも少なくありません。診断を受けず「生きづらさの原因がわからない」と感じている方も多いと言われています。
☆支援学校や福祉の現場で感じる課題
支援学校やグループホームなどの現場では、ASDの特性による以下のような場面がよくあります。
・グループ活動が苦手で孤立しやすい
・突発的な行動や言動に周囲が戸惑う
・支援者側の理解不足によるトラブル
また、制度面でもASDは「見えにくい障がい」として支援を受けづらい場合があり、家族の負担が大きくなることも課題です。
☆ASDの方への具体的な配慮例
・事前に予定やルールを細かく伝える
・視覚的な情報を活用する(予定表や絵カード)
・感覚過敏への対応(イヤーマフ、暗めの照明など)
・興味関心を活かした活動内容の工夫
・大人の場合、就労先や家庭内での配慮(明確な指示・過度な雑談を控えるなど)
ASDは見た目では分かりにくいですが、本人も周囲も生きづらさを感じやすい障がいです。 まずは「困っていることは何か?」を丁寧に聞き取り、一人ひとりに合った支援や環境調整を行うことが大切です。