災害は誰にとっても命に関わる重大事ですが、障害のある方にとっては、避難行動そのものや避難所での生活が著しく困難になるケースが多くあります。
実際に、過去の震災(東日本大震災・熊本地震など)でも、障害者の死亡率は健常者の2倍以上だったという報告もあります。
避難情報が届かない、移動手段がない、避難所での配慮がない——これらが命に直結するのです。
・視覚障害:地震発生時、避難経路が分からずパニックになる
・聴覚障害:サイレンや避難情報の放送が聞こえず、避難のタイミングを逃す
・エレベーターが停止し階段が使えないことで避難が困難
・がれきや段差により、物理的に移動できない
・環境の急変や人の多さに強い不安や混乱を感じる
・避難所の音・光・においなどの刺激に耐えられず、長時間の滞在が困難
・吸引器や人工呼吸器などの医療機器に電源が必要
・避難所に適切な支援者や医療体制がない
・バリアフリーでない避難所が多い
・プライバシーや静かな空間の確保が難しい
・医療物品の持ち込み・使用が制限される場合がある
・専門職(看護師・介助者・手話通訳者など)が不足
・福祉避難所の早期開設・情報公開
・個別避難計画の策定(自治体と家族・支援者が協働で)
・平時からの避難訓練・シミュレーション(福祉施設、支援学校、通所事業所など)
・要配慮者名簿の活用と適切な支援体制
・障害のある方の存在を地域で「把握」しておく
・地域の自主防災会での情報共有・避難支援チームの編成
・平時からの声かけ・交流を通じて、信頼関係を築く
・防災訓練に障害当事者・家族も参加できるよう配慮する
令和6年障害者白書では、防災に関する項目において次のように述べられています
「避難行動要支援者である障害者への対応は、事前の備えと地域との連携が不可欠であり、平時からの訓練と対話が有効である。」
・「避難所に酸素ボンベを持ち込む許可がなかなか下りなかった」
・「手話通訳がいないため、正確な情報が分からなかった」
・「発達障害の子が騒音に耐えられず、車で夜を過ごすしかなかった」
障害のある人にとって、災害時の“当たり前”は当たり前ではありません。
命を守るには、制度・設備・心の備えの三位一体の防災体制が必要です。
“誰一人取り残さない”を本気で実現するには、行政・地域・個人がそれぞれの立場で行動していくことが求められています。
「地域共生社会」とは、高齢者、障害者、子ども、外国人、ひとり親家庭、生活困窮者など、支援を必要とするすべての人が、地域の中で自分らしく暮らせるよう、互いに支え合う社会のことです。
厚生労働省はこの構想を以下のように定義しています。
「制度・分野ごとの縦割りや支える側・支えられる側という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が、我がごと・丸ごととして支え合う地域づくり」
これは、福祉制度の限界や分断を超えて、「地域のつながり」によって課題を解決していこうという考え方です。
理想は理想として、多くの自治体や住民はこの共生構想を現実化するために苦労しています。
・福祉・医療・教育・住宅・就労などの支援制度が「分野別」に分かれすぎていて、利用者が複数の窓口を行き来しなければならない
・誰に相談すれば良いのか分からず、制度にアクセスできない人が多い
・地域包括支援センターや相談支援専門員などの人員不足、専門性のばらつき
・当事者や家族が「地域で孤立してしまう」現象が依然として多く見られる
厚労省が推進する「重層的支援体制整備事業」は、まさにこうした課題に応えるための取り組みです。
・分野横断的な「断らない相談支援」体制
・アウトリーチ(訪問支援)による支援のきっかけづくり
・社会的孤立を防ぐ「参加支援」
例えば、障害のある人が就労に悩んでいる場合、就労支援だけでなく、「家庭の状況」「住まいの安定」「地域とのつながり」など、包括的な支援が必要になることがあります。
・「介護保険では対象外、障害福祉でも該当しないと言われ、結局どこにも相談できなかった」
・「ひきこもりの息子に、就労だけでなく地域の人とのつながりをつくってあげたいが、支援制度が分かれていて断念した」
・「ショートステイやグループホームの空きがなく、相談しても“空いたら連絡します”で終わってしまう」
・制度の「つなぎ目」にいる人を見落とさない仕組みづくり
・相談支援の充実と、支援者の育成・確保
・当事者・家族・支援者・地域住民が互いに学び合い、支え合う場づくり
・子どもの頃からの「多様性教育」の導入
地域共生社会は、一部の専門職だけが担うものではなく、“みんなの力でつくる社会の形”です。
障害のある人もない人も、「誰かに頼っていい」「困ったら相談できる」そんな当たり前が当たり前になる社会を、私たちの手で築いていきましょう。
日本には、障害のある方が就労することを支援するための制度が複数存在します。その中心となるのが以下の3つです。
・一般就労(企業などでの雇用)を目指す18歳〜64歳までの障害のある方が対象
・ビジネスマナーやパソコンスキルなどの訓練、職場実習、就職活動支援、定着支援などを実施
・利用期間は原則2年間
・通常の企業での就労が困難な方が、事業所と雇用契約を結び、最低賃金が保証される形で働く
・一定の労働能力があり、雇用契約に基づく勤務が可能な方が対象
・雇用契約を結ばず、軽作業などを行いながら就労訓練を行う形態
・比較的重度の障害や、就労への不安が大きい方が対象
・工賃(月額1〜3万円程度)の支給が一般的
これらの制度は、障害の特性や本人の希望、現在の生活状況に応じて選ばれますが、現場では多くの課題も指摘されています。
・「一般就労できたが、合理的配慮が得られず1ヶ月で辞めてしまった」
・「就労継続支援B型に通っているが、作業内容が単調で達成感が少ない」
・「A型から一般就労に移りたくても、自信や体力がなくステップアップが難しい」
・「事業所が人手不足で、利用者一人ひとりに丁寧な支援ができていない」
こうした現場の声からは、制度の“枠組み”があっても、その中で個々の事情に合った支援が十分に機能していない現状がうかがえます。
就労支援事業所の運営には、支援員・職業指導員・サービス管理責任者などが必要で、一定の人員配置基準も定められています。
しかし実際には、
・支援員の確保が難しい(低賃金・専門性・負担の大きさ)
・利用者の状態に合わせた支援計画の作成と実行が困難
・利用者の就職先の確保に苦労している
・施設間での連携が不十分
といった課題も多く、支援の質が地域によってバラついているのが実情です。
障害者の就労支援においては、支援機関と企業の橋渡しを担う人材の育成、就労後の定着支援の質的強化が求められている。また、就労継続支援事業の質の向上と、工賃の改善、就労先とのマッチングの仕組みづくりが課題である。
このように、制度そのものの見直しと、支援する人・つなぐ人の強化が、今後の焦点として明記されています。
・障害者雇用の受け皿を広げるため、中小企業へのインセンティブ強化
・障害特性に応じた「ジョブコーチ」制度の活用
・通勤や生活支援とセットで考える「トータルサポート」の推進
・福祉と労働の分野を超えた官民連携
「働くこと」は、経済的な自立だけでなく、生きがいや社会とのつながりにも直結します。
しかし障害のある方にとって、それは決して“当然に得られる権利”ではありません。
『制度・支援・雇用側の理解』この三本柱が揃って初めて、本当の意味での「就労支援」が実現します。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の違いによって、行動・感情・対人関係・学習などに特性が現れる状態です。代表的なものに以下の3つがあります。
・自閉症スペクトラム障害(ASD):コミュニケーションの困難さ、こだわりの強さ、感覚過敏など
・注意欠如・多動性障害(ADHD):集中の難しさ、不注意、衝動的な行動、多動など
・学習障害(LD):読む・書く・計算するなど、特定の学習分野の困難
これらは「障害」と表現されますが、能力の偏りであり、環境とのミスマッチが生きづらさを生んでいます。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の人と平等に社会に参加できるよう、必要かつ適切な変更や調整を行うことを指します。これは、2016年の障害者差別解消法の施行により、公的機関では義務化、民間企業では努力義務とされています。
・学校:集中しやすい席を用意する、課題の提示方法を工夫する
・職場:静かな環境の提供、指示を視覚化する、通勤時間の配慮
・生活:順番を待つのが苦手な人に、別枠での対応をする
発達障害の多くは外見からは分かりにくいため、周囲の理解が得られず、誤解や孤立につながりやすいです。
・「空気が読めない」「マイペースすぎる」→ 実はASDの特性
・「だらしない」「忘れっぽい」→ 実はADHDの不注意特性
・「やる気がない」→ LDによる学習の困難さが背景
これは本人の努力不足ではなく、脳の特性に起因する『困りごと』であるという理解が必要です。
合理的配慮は、単に「特別扱い」することではありません。 重要なのは、本人のニーズを聞くことと、環境を柔軟に整えること。
合理的配慮が機能する環境には次のような要素があります:
・本人との対話を重視する文化
・支援者(家族・教員・上司)の理解と柔軟性
・マニュアル化されていない臨機応変な対応力
・「できない」ことを責めず、「どうすればできるか」を一緒に考える姿勢
発達障害のある者に対する合理的配慮が十分に行われていない現状がある。本人の意思の表出が困難な場合に、代弁者や支援者を通じて配慮が実現される仕組みづくりが重要である。
発達障害に対する社会的理解がまだ十分とは言えず、誤解や偏見が本人の困難を増幅させている。
・「職場で配慮してもらえず、退職せざるを得なかった」
・「通院先の医師にすら“気の持ちよう”と言われてショックだった」
・「子どもが学校で“わがまま”扱いされ、毎日泣いて帰ってくる」
・見た目に惑わされず、“困っているサイン”に気づくこと
・「わからない」ことは素直に聞く
・「配慮=甘やかし」ではなく、「公平のための工夫」と理解する
合理的配慮は、特別ではなく“あたりまえ”の支援です。 私たちの意識が変わることで、誰もが自分らしく過ごせる社会に近づいていきます。
発達障害に対する理解と合理的配慮の推進は、社会の成熟度を測る指標でもあります。
「目に見えない困難」に寄り添う視点が、共に生きる力になります。
身体障害とは、視覚・聴覚・肢体・音声・言語・内部障害などの身体的機能に障害がある状態で、日常生活や社会生活に制限が生じるものです。
身体障害者手帳の交付対象になる障害の主な分類には、以下があります。
・視覚障害:全盲・弱視など、視力や視野に著しい障害がある状態。
・聴覚障害:聴力の著しい低下または完全に聴こえない状態。補聴器や人工内耳を使用しても情報取得に困難がある。
・平衡機能障害:体のバランスを保つ能力が著しく低下し、歩行が困難になる。
・肢体不自由:上肢・下肢・体幹の運動機能に障害がある。例:麻痺、欠損、関節拘縮など。
・音声・言語・そしゃく機能障害:声を出す、話す、噛むなどの機能に著しい障害がある。
・内部障害:心臓、腎臓、呼吸器、膀胱、直腸、小腸、肝臓、HIVなど、外見からは分かりにくいが継続的な治療や管理が必要な障害。
これらの障害は、生まれつきの先天性障害と、事故や病気による後天性障害の両方があります。
音声・言語・そしゃく機能障害:声を出す、話す、噛むなどの機能に著しい障害がある。
身体障害者の生活には、物理的な段差や手すりの不備といった”目に見える”バリアだけでなく、制度の壁や社会の無理解という”見えない”バリアが存在します。
・車椅子で出かけた際、駅構内にエレベーターがなく、ホームへの移動ができない
・商業施設の入口に段差があり、介助者がいないと入店できない
・飲食店のトイレが狭く、車椅子で入れない
・医療的ケア児を育てる家庭が、通院のたびにタクシーを利用しているが、交通費の補助制度が利用できない(対象が限定的)
・住宅改修制度の申請に時間がかかり、緊急性の高いケースでもすぐに対応できない
・介護保険制度ではなく障害福祉サービスが必要だが、切替手続きの煩雑さで申請を断念
・「手助けが必要そうだけど、断られたらどうしよう」と声をかけることに躊躇
・障害のある人を「かわいそう」と思い込んでしまい、対等な関係が築けない
・施設利用中に、周囲の視線を気にして外出を控えてしまう
・廊下や浴室に手すり設置、トイレの拡張、スロープ導入などが基本
・起床・就寝・移動を助ける電動ベッドや介助リフトの導入
・在宅介護支援機器(排泄支援機器、呼吸器)などとの連携も必要
・多くの自治体では「住宅改修費助成制度」や「日常生活用具の給付制度」が用意されているが、申請書類の煩雑さや相談窓口の対応が課題
・バリアフリー化された歩道や公共施設(図書館・役所など)
・電動車椅子でも移動できる歩道幅の確保
・病院・スーパーなど生活に欠かせない施設が物理的・心理的に”利用しやすい”状態であることが重要
・医療的ケアが必要な人にも対応した通所・訪問支援
・通院・通学・就労先までの移動支援制度
・補装具・福祉用具の給付や貸与制度の利便性向上
・年齢や収入により異なる助成額の格差の是正
令和6年障害者白書には、次のような実情が記されています。身体障害者の生活の質の向上には、地域でのインクルーシブな生活支援が不可欠であり、特に高齢化が進む中、移動支援や住環境の整備が重要である。
また、内部障害(例:心臓や腎臓の機能障害)のある人については、見た目で理解されにくく、福祉サービスの対象から漏れがちであるという指摘もあります。
・「車椅子で通える歯科医院が地域に1つしかない。予約も取りづらい」
・「内部障害のある息子は外見では分からないため、駅で優先席に座っていると非難される」
・「住宅改修を申請したが、自治体によっては1年以上かかる」
・「障害者枠の雇用で職に就いたが、通勤がバリアだらけで結局続けられなかった」
・身体障害のある方を見かけたら、『やさしく声をかける』ことから始める
・施設やイベントを企画する側なら、バリアフリーチェックを意識する
・福祉サービスについて知り、家族や友人に正しい情報を伝える
障害があっても自分らしく暮らせる社会は、すべての人にとって暮らしやすい社会です。
身体障害は、工夫と配慮と制度設計によって暮らしやすさが大きく変わります。
『不便』は本人の責任ではなく、社会の整備不足。
その視点に立って、誰もが暮らしやすい地域づくりを進めていきましょう。