日本には、障害のある方が就労することを支援するための制度が複数存在します。その中心となるのが以下の3つです。
・一般就労(企業などでの雇用)を目指す18歳〜64歳までの障害のある方が対象
・ビジネスマナーやパソコンスキルなどの訓練、職場実習、就職活動支援、定着支援などを実施
・利用期間は原則2年間
・通常の企業での就労が困難な方が、事業所と雇用契約を結び、最低賃金が保証される形で働く
・一定の労働能力があり、雇用契約に基づく勤務が可能な方が対象
・雇用契約を結ばず、軽作業などを行いながら就労訓練を行う形態
・比較的重度の障害や、就労への不安が大きい方が対象
・工賃(月額1〜3万円程度)の支給が一般的
これらの制度は、障害の特性や本人の希望、現在の生活状況に応じて選ばれますが、現場では多くの課題も指摘されています。
・「一般就労できたが、合理的配慮が得られず1ヶ月で辞めてしまった」
・「就労継続支援B型に通っているが、作業内容が単調で達成感が少ない」
・「A型から一般就労に移りたくても、自信や体力がなくステップアップが難しい」
・「事業所が人手不足で、利用者一人ひとりに丁寧な支援ができていない」
こうした現場の声からは、制度の“枠組み”があっても、その中で個々の事情に合った支援が十分に機能していない現状がうかがえます。
就労支援事業所の運営には、支援員・職業指導員・サービス管理責任者などが必要で、一定の人員配置基準も定められています。
しかし実際には、
・支援員の確保が難しい(低賃金・専門性・負担の大きさ)
・利用者の状態に合わせた支援計画の作成と実行が困難
・利用者の就職先の確保に苦労している
・施設間での連携が不十分
といった課題も多く、支援の質が地域によってバラついているのが実情です。
障害者の就労支援においては、支援機関と企業の橋渡しを担う人材の育成、就労後の定着支援の質的強化が求められている。また、就労継続支援事業の質の向上と、工賃の改善、就労先とのマッチングの仕組みづくりが課題である。
このように、制度そのものの見直しと、支援する人・つなぐ人の強化が、今後の焦点として明記されています。
・障害者雇用の受け皿を広げるため、中小企業へのインセンティブ強化
・障害特性に応じた「ジョブコーチ」制度の活用
・通勤や生活支援とセットで考える「トータルサポート」の推進
・福祉と労働の分野を超えた官民連携
「働くこと」は、経済的な自立だけでなく、生きがいや社会とのつながりにも直結します。
しかし障害のある方にとって、それは決して“当然に得られる権利”ではありません。
『制度・支援・雇用側の理解』この三本柱が揃って初めて、本当の意味での「就労支援」が実現します。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の違いによって、行動・感情・対人関係・学習などに特性が現れる状態です。代表的なものに以下の3つがあります。
・自閉症スペクトラム障害(ASD):コミュニケーションの困難さ、こだわりの強さ、感覚過敏など
・注意欠如・多動性障害(ADHD):集中の難しさ、不注意、衝動的な行動、多動など
・学習障害(LD):読む・書く・計算するなど、特定の学習分野の困難
これらは「障害」と表現されますが、能力の偏りであり、環境とのミスマッチが生きづらさを生んでいます。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の人と平等に社会に参加できるよう、必要かつ適切な変更や調整を行うことを指します。これは、2016年の障害者差別解消法の施行により、公的機関では義務化、民間企業では努力義務とされています。
・学校:集中しやすい席を用意する、課題の提示方法を工夫する
・職場:静かな環境の提供、指示を視覚化する、通勤時間の配慮
・生活:順番を待つのが苦手な人に、別枠での対応をする
発達障害の多くは外見からは分かりにくいため、周囲の理解が得られず、誤解や孤立につながりやすいです。
・「空気が読めない」「マイペースすぎる」→ 実はASDの特性
・「だらしない」「忘れっぽい」→ 実はADHDの不注意特性
・「やる気がない」→ LDによる学習の困難さが背景
これは本人の努力不足ではなく、脳の特性に起因する『困りごと』であるという理解が必要です。
合理的配慮は、単に「特別扱い」することではありません。 重要なのは、本人のニーズを聞くことと、環境を柔軟に整えること。
合理的配慮が機能する環境には次のような要素があります:
・本人との対話を重視する文化
・支援者(家族・教員・上司)の理解と柔軟性
・マニュアル化されていない臨機応変な対応力
・「できない」ことを責めず、「どうすればできるか」を一緒に考える姿勢
発達障害のある者に対する合理的配慮が十分に行われていない現状がある。本人の意思の表出が困難な場合に、代弁者や支援者を通じて配慮が実現される仕組みづくりが重要である。
発達障害に対する社会的理解がまだ十分とは言えず、誤解や偏見が本人の困難を増幅させている。
・「職場で配慮してもらえず、退職せざるを得なかった」
・「通院先の医師にすら“気の持ちよう”と言われてショックだった」
・「子どもが学校で“わがまま”扱いされ、毎日泣いて帰ってくる」
・見た目に惑わされず、“困っているサイン”に気づくこと
・「わからない」ことは素直に聞く
・「配慮=甘やかし」ではなく、「公平のための工夫」と理解する
合理的配慮は、特別ではなく“あたりまえ”の支援です。 私たちの意識が変わることで、誰もが自分らしく過ごせる社会に近づいていきます。
発達障害に対する理解と合理的配慮の推進は、社会の成熟度を測る指標でもあります。
「目に見えない困難」に寄り添う視点が、共に生きる力になります。
身体障害とは、視覚・聴覚・肢体・音声・言語・内部障害などの身体的機能に障害がある状態で、日常生活や社会生活に制限が生じるものです。
身体障害者手帳の交付対象になる障害の主な分類には、以下があります。
・視覚障害:全盲・弱視など、視力や視野に著しい障害がある状態。
・聴覚障害:聴力の著しい低下または完全に聴こえない状態。補聴器や人工内耳を使用しても情報取得に困難がある。
・平衡機能障害:体のバランスを保つ能力が著しく低下し、歩行が困難になる。
・肢体不自由:上肢・下肢・体幹の運動機能に障害がある。例:麻痺、欠損、関節拘縮など。
・音声・言語・そしゃく機能障害:声を出す、話す、噛むなどの機能に著しい障害がある。
・内部障害:心臓、腎臓、呼吸器、膀胱、直腸、小腸、肝臓、HIVなど、外見からは分かりにくいが継続的な治療や管理が必要な障害。
これらの障害は、生まれつきの先天性障害と、事故や病気による後天性障害の両方があります。
音声・言語・そしゃく機能障害:声を出す、話す、噛むなどの機能に著しい障害がある。
身体障害者の生活には、物理的な段差や手すりの不備といった”目に見える”バリアだけでなく、制度の壁や社会の無理解という”見えない”バリアが存在します。
・車椅子で出かけた際、駅構内にエレベーターがなく、ホームへの移動ができない
・商業施設の入口に段差があり、介助者がいないと入店できない
・飲食店のトイレが狭く、車椅子で入れない
・医療的ケア児を育てる家庭が、通院のたびにタクシーを利用しているが、交通費の補助制度が利用できない(対象が限定的)
・住宅改修制度の申請に時間がかかり、緊急性の高いケースでもすぐに対応できない
・介護保険制度ではなく障害福祉サービスが必要だが、切替手続きの煩雑さで申請を断念
・「手助けが必要そうだけど、断られたらどうしよう」と声をかけることに躊躇
・障害のある人を「かわいそう」と思い込んでしまい、対等な関係が築けない
・施設利用中に、周囲の視線を気にして外出を控えてしまう
・廊下や浴室に手すり設置、トイレの拡張、スロープ導入などが基本
・起床・就寝・移動を助ける電動ベッドや介助リフトの導入
・在宅介護支援機器(排泄支援機器、呼吸器)などとの連携も必要
・多くの自治体では「住宅改修費助成制度」や「日常生活用具の給付制度」が用意されているが、申請書類の煩雑さや相談窓口の対応が課題
・バリアフリー化された歩道や公共施設(図書館・役所など)
・電動車椅子でも移動できる歩道幅の確保
・病院・スーパーなど生活に欠かせない施設が物理的・心理的に”利用しやすい”状態であることが重要
・医療的ケアが必要な人にも対応した通所・訪問支援
・通院・通学・就労先までの移動支援制度
・補装具・福祉用具の給付や貸与制度の利便性向上
・年齢や収入により異なる助成額の格差の是正
令和6年障害者白書には、次のような実情が記されています。身体障害者の生活の質の向上には、地域でのインクルーシブな生活支援が不可欠であり、特に高齢化が進む中、移動支援や住環境の整備が重要である。
また、内部障害(例:心臓や腎臓の機能障害)のある人については、見た目で理解されにくく、福祉サービスの対象から漏れがちであるという指摘もあります。
・「車椅子で通える歯科医院が地域に1つしかない。予約も取りづらい」
・「内部障害のある息子は外見では分からないため、駅で優先席に座っていると非難される」
・「住宅改修を申請したが、自治体によっては1年以上かかる」
・「障害者枠の雇用で職に就いたが、通勤がバリアだらけで結局続けられなかった」
・身体障害のある方を見かけたら、『やさしく声をかける』ことから始める
・施設やイベントを企画する側なら、バリアフリーチェックを意識する
・福祉サービスについて知り、家族や友人に正しい情報を伝える
障害があっても自分らしく暮らせる社会は、すべての人にとって暮らしやすい社会です。
身体障害は、工夫と配慮と制度設計によって暮らしやすさが大きく変わります。
『不便』は本人の責任ではなく、社会の整備不足。
その視点に立って、誰もが暮らしやすい地域づくりを進めていきましょう。
知的障害とは、知的機能の発達が平均よりも著しく遅れ、日常生活に支障をきたす状態を指します。
発達期(おおむね18歳まで)に生じ、認知力・判断力・学習能力などに困難を伴うことが特徴です。
厚生労働省による分類では、以下の3点が主な判断基準とされています。
・IQ(知能指数)が概ね70以下
・社会的適応能力の制限(コミュニケーション・生活スキル・対人スキルなど)
・発症が発達期にある
知的障害の程度は軽度から重度までさまざまで、支援の内容も個別に異なります。軽度の場合は一見して分かりにくく、誤解や偏見を受けることも少なくありません。
内閣府の「令和6年 障害者白書」によると、知的障害のある人の数は約108.5万人(令和4年)とされており、そのうち在宅で生活している人が約9割以上を占めています。
このように多くの方が地域で生活している一方で、見た目や行動からは障害が分かりにくいため、「怠けている」「空気が読めない」などと誤解を受けるケースもあります。
教育や就労、生活の場面において以下のような課題が多く報告されています:
・通常学級での受け入れ体制が不十分(特別支援学級の教員不足、支援員の配置不備)
・特別支援学校卒業後の進路が限られている(福祉施設かごく一部の就労先)
・就労継続支援B型事業所への偏りと、賃金水準の低さ(月平均15,000円未満)
知的障害のある方の多くは、軽作業や清掃、調理補助などの分野で就労しています。 しかし、以下のような現実的な課題があります。
・作業スピードや正確さを求められる職場では適応が難しい
・職場内の人間関係や指示の理解に時間がかかる
・雇用主側の理解や支援ノウハウが不足している
さらに、就労に向けた移行支援制度が「支援学校卒業後にしか利用できない」など、制度の段差も深刻な問題となっています。
実際に「本人は働く意欲があるのに、受け入れ先がなく家庭で孤立している」という声も多く聞かれます。
知的障害のある子を育てる家庭では、次のような声がよく聞かれます。
・「親亡き後の生活が心配」
・「兄弟姉妹への負担が大きくならないか不安」
・「福祉制度が複雑で何から始めればいいか分からない」
グループホームなどの居住支援も不足しており、地域差によっては数年待機という地域もあります。
また、入所施設の高齢化や慢性的な人手不足等により、希望してもすぐに利用できるわけではありません。
さらに家族の精神的・経済的な負担も大きく、親が高齢になっても支援を担っている現状があります。
令和6年障害者白書では、以下のような指摘があります。「知的障害者の社会参加においては、移動・対人コミュニケーション・自己管理等に支援が必要であり、制度の継ぎ目で生じる“谷間”の解消が求められる。」
つまり、「学齢期→成人期→老年期」のライフステージに沿った支援体制を整備することが、今後の大きな課題と言えるでしょう。
知的障害を抱える方は、日々の生活の中で「ちょっとした支援」や「理解のある関わり」によって、大きな安心感と自信を得ることができます。
・声かけをゆっくり・わかりやすく
・目を見て伝える、同じことを何度も丁寧に繰り返す
・支援を一方的にではなく、本人の意志を尊重する
・困っている様子を見かけたら、そっと声をかける勇気を
「特別視」するのではなく、「配慮」をもって自然に関わる姿勢が大切です。
知的障害のある方にとって、社会との“接点”が増えることは自立や尊厳ある暮らしに直結します。逆に、支援の“切れ目”が孤立を生みやすくします。
地域・家庭・学校・職場など、あらゆる場で「共に生きる」意識を持ち、共生社会の実現に向けて一歩ずつ進んでいけるよう、引き続き考え続けていきましょう。
精神障害とは、脳の機能や精神の状態に不調をきたし、感情や思考、行動に影響を及ぼし、日常生活や社会活動に困難を抱える状態を指します。外見からは障害がわかりにくいため、周囲の理解を得るのが難しく、「なまけている」「やる気がない」と誤解されることも少なくありません。
日本の法律や医療制度において精神障害として扱われる代表的な疾患には以下が含まれます:
・統合失調症:幻覚・妄想・思考障害などの症状があり、病識がないことも多いが、治療により寛解も可能。
・気分障害(うつ病・双極性障害):気分の極端な変動や持続する落ち込みなど。就労・通学が困難になる場合も。
・不安障害・パニック障害・強迫性障害:特定の状況や対象に対する極端な不安や行動制御の困難がみられる。
・てんかん:突発的な発作があり、精神障害に分類されるが脳神経疾患でもある。
近年、精神障害を抱える人の数は増加傾向にあり、厚労省の統計によると令和2年時点で419.3万人と報告されています(※入院・外来合わせて)。背景には以下の要因が挙げられます:
・高ストレス社会(過重労働・SNS・人間関係の複雑化)
・早期診断や通院・受診の敷居が下がったこと
・精神疾患の概念が広がり、多様な症状が対象になったこと
精神障害者の雇用率は障害者の中でも最も低いが、希望者は多い。社会的偏見や職場の理解不足が障壁となっている。
また、精神障害者保健福祉手帳の取得者のうち、
・約40%が「周囲に障害を明かしていない」
・約25%が「障害を理由に退職を経験した」と回答
という調査もあり、職場や地域における偏見の根深さが浮き彫りになっています。
出典:令和6年障害者白書
・医療と福祉の連携不足:退院後の地域移行支援が不十分なまま、孤立してしまうケースも。
・本人の自己理解と受容に時間がかかる:病識(自分が障害を抱えていることの認識)を持てない人も多く、支援のスタートラインに立つまでに時間がかかります。
・支援者・家族の燃え尽き(ケアラーズ・バーンアウト):24時間の支援が必要な場合、介護者側の限界も大きな社会課題です。
合理的配慮は、障害者差別解消法により企業や行政に対して義務付けられています。精神障害においては、以下のような配慮が求められます:
・勤務時間や出勤日の柔軟化(通院・服薬の影響を考慮)
・静かな作業スペースの確保
・ストレスの少ない業務配分
・明確な指示やマニュアルの提供
精神科に継続的に通院する人にとって負担が大きい医療費については、「自立支援医療制度(精神通院医療)」により、原則1割負担になります。
また、以下のサービスとの併用も可能:
・地域活動支援センター
・就労移行支援、就労継続支援A/B型
・グループホームや地域定着支援
精神障害は、目に見えにくく、支援の在り方も千差万別です。症状は一人ひとり異なり、「この人はこうすべき」という一括りの理解では支えきれません。
社会全体として、「見えないから配慮しない」のではなく、「見えないからこそ対話と配慮が必要」という視点の転換が必要です。
偏見や誤解を乗り越え、精神障害があっても自分らしく生きられる社会をつくるために、私たち一人ひとりが“できること”を考えていきたいと思います。